IT経営からデジタル経営へ

このページは、4ステップのうち後半2段(IT経営 → デジタル経営)にフォーカスし、
「土台としてのIT経営」から「価値創造としてのデジタル経営」へ移行するための実践的な視点を整理したものです。

IT経営からデジタル経営へ:実践の視点

ITと経営をつなぐ次の一歩

IT経営デジタル経営を示す図

IT経営からデジタル経営へ進むための考え方

経営目標に直結するIT経営を土台に、業務・組織・意思決定が「自走」できる状態へと段階的に移行していく―。

このページでは、IT経営からデジタル経営へと進むための考え方と、その過程で 現場で起こりがちなつまずきポイントを整理します。

単に新しいツールを入れるのではなく、「思考 → しくみ → 組織」という流れで変えていくことで、中小企業でも無理なくデジタル経営に近づいていけるステップを解説します。
 
※IT経営・デジタル経営の基本的な定義や位置づけは、「IT経営・デジタル経営の基礎」のページで整理しています。本ページでは、その一歩先の“実践の視点”に焦点を当てます。

IT経営を土台にしないデジタル経営は長続きしない

足元を整えてこそ変革は続く

IT経営は「今の事業を強くするための土台」

IT経営は、ITをヒト・モノ・カネと同じ「経営資源」として扱い、

  •  業務プロセスの見える化・標準化
  • 情報やデータの一元管理
  • 日次・リアルタイムでの業績把握
  • IT投資の優先順位づけと投資対効果の管理

 
といった取り組みを通じて、いまの事業を安定して・稼ぎやすくするための土台づくりです。
なぜこの土台が重要かというと、
「日々の業務と数字が整っていない状態で、ビジネスモデルだけを変えても再現性が出ない」 からです。
 

デジタル経営は「事業そのものをアップデートするフェーズ」

一方、デジタル経営は、

  • 顧客との関係性の再設計(紙・対面中心から、オンラインも前提とした関係へ)
  • 売り切りから、継続課金・サービス化・サブスクリプションへの転換
  • 社内だけでなく、取引先・パートナー・地域とのデータ連携による共創

 
といった形で、事業のあり方・提供価値そのものを変えていくフェーズです。
この段階では、日々の業務や数字が安定していなければ、
変化の効果を測れず、「やってみたけれど、結局よくわからなかった」で終わってしまいます。
 

時間軸で見る「IT経営 → デジタル経営」

3つのフェーズで無理なく移行

IT経営からデジタル経営への移行を、時間軸で整理すると次の3つのフェーズになります。

フェーズ1:
IT経営の立ち上げ

キーワード:見える化・標準化・属人性の削減
 

  • バラバラなExcel・紙・口頭伝達を整理し、業務と情報の流れを「1枚の絵」にする
  • 会計・販売・在庫・生産など、基幹的な領域のデータを、少なくとも月次で揃える
  • 「誰がいなくなると困るのか」を洗い出し、マニュアル化・ルール化を進める

 
この段階の目的は、「業務と数字が最低限“見える”状態をつくること」です。
 

フェーズ2:
IT経営の深化

キーワード:データで語る、意思決定の型づくり
 

  • 月次ベースから、日次・週次のKPIで状況をモニタリング
  • 会議で「感覚」ではなく、同じ数字・同じ資料を見ながら議論する
  • IT投資の優先順位づけ(どの施策に、いつ、どのくらい投資するか)をルール化する

 
ここでは、「経営と現場が共通の数字・事実に基づいて会話できる状態」を目指します。
この状態になると、初めてデジタルを使った新しい売り方やサービスの議論が、現実味を帯びてきます。
 

フェーズ3:
デジタル経営

キーワード:価値創造・共創・自走
 

  • 顧客行動データをもとに、商品構成・サービス設計を見直す
  • サービス提供プロセスをオンライン・オフラインをまたいで再設計する
  • パートナー企業や地域とのデータ連携を通じ、新サービス・新事業を検討する

 
この段階では、「ITを入れる」こと自体が目的ではなく、デジタルを使ってどれだけ新しい価値を生み出せるか がテーマになります。
 

IT経営からデジタル経営へ進む 4つの視点

変革を進めるための4つの視点

IT経営からデジタル経営へ移行する際に、特に意識しておきたい4つの視点を整理します。

視点1:
効率化中心から「価値創造」中心へ

IT経営では、どうしても 「時間を減らす」「ミスを減らす」 といった効率化に目が向きがちです。
もちろんこれは重要ですが、デジタル経営のフェーズでは、

  • どの顧客に
  • どのような価値を
  • どのチャネル・仕組みで届けるのか

 
という 「価値の設計」 が主役になります。

なぜかというと、デジタル化だけでは競合もすぐに追いつくため、「自社ならではの価値をどう増幅するか」 が差別化の源泉になるからです。

 

視点2:
社内完結から「社外との連携」へ

 
IT経営では、社内の効率化・見える化が主な対象ですが、
デジタル経営では、

  • 取引先とのデータ連携
  • 顧客とオンラインでつながる仕組み
  • 異業種とのサービス連携

 
など、組織の境界をまたぐ取り組みが増えていきます。

これは、自社だけで完結できる価値に限界がある からです。社外との連携を前提に設計することで、価値の総量・スピードを高めることができます。

 

視点3:
属人的な判断から「データに基づく合意形成」へ

IT経営の段階では、データはあっても、
最終的な判断は「社長の経験と勘」に依存する場面が多くあります。

  • どのデータを見るのか
  • どう解釈するのか
  • どのレベルで誰が意思決定するのか

 
といった 意思決定プロセスそのものを設計し直すこと が重要になります。

ここをあいまいにしたまま進めると、「データはあるが、結局いつも同じ人の声が通る」状態から抜け出せません。
 

視点4:
プロジェクトから「常時アップデートされる仕組み」へ

 

  • 基幹システムの入替
  • 新しいツールの導入
  • DXプロジェクトの立ち上げ

 
といった「プロジェクト」は分かりやすい反面、
「プロジェクトが終わったら、議論も終わる」 という落とし穴があります。
 

デジタル経営では、

  • 定例の振り返り(レビュー)
  • 小さな改善の記録と共有
  • 改善を反映するための意思決定ルート

 
といった仕組みを通じて、常にアップデートされ続ける状態を目指します。
なぜなら、デジタル技術も市場も変化し続けるため、「一度きりの大改革」では、すぐに陳腐化してしまうからです。

現場で起こりがちな「つまずきポイント」

つまずきを防ぎ進み方を整える

IT経営からデジタル経営へ進む過程で、中小企業でよく見られるつまずきポイントを整理します。

 

つまずき1:
IT担当者・ベンダー任せになっている

 
・経営陣は概要だけ聞き、「技術のことは任せる」と丸投げ
・現場は「やれと言われたからやる」状態で、自分ごとにならない

 
この状態では、経営目標とのつながりが見えないままツールだけが増え、“経営の話”と“ITの話”が最後まで別々のままです。
 

 

つまずき2:
全部を一気に変えようとして、途中で止まる

 
・全社一斉のシステム入れ替えを短期間で進めようとする
・既存業務を止める前提で計画してしまい、現場がついてこれない

 
結果として、プロジェクト疲れが起こり、「もうITの話はしばらくいい」という空気になってしまいます。
 

 

つまずき3:
ツール導入がゴールになってしまう

 
・導入時の操作研修は行うが、その後の定着を確認する場がない
・成果指標(KPI)が曖昧で、「結局良くなったのか」が分からない

 
ツール導入はスタートに過ぎず、「どんな行動が増えれば成功か」「どんな数字が変われば成功か」 をあらかじめ決めておかないと、評価も改善もできません。
 

 

つまずき4:
「人がいない」を理由に、何も始められない

 
・「ITに詳しい人材がいないから無理」と考えてしまう
・採用・育成を検討する前に、議論が止まってしまう

 
しかし実際には、
・既存のメンバーから「IT・デジタルに興味がある人」を見つける
・小さなプロジェクト単位で学びながら進める

 
といった形でも、十分現実的に一歩を踏み出すことができます。重要なのは、「完璧な担当者を探す」ことではなく、「小さく始められるチームをつくる」ことです。
 

 

つまずき5:
現状の「見える化」を飛ばして構想だけを描く

 
・現場の業務フローや情報の流れが整理されていない
・その状態で、将来像だけを描いたDX構想を作ってしまう

 
この場合、構想と実態のギャップが大きすぎて、現場が動けません。まずは、既にあるExcel・紙・システムの棚卸しから着手し、「今どんな仕事に、どれだけ時間を使っているのか」 を可視化することが不可欠です。

中小企業が現実的に進めるための 3ステップ

今日から始める3つの実践ステップ

ここまでを踏まえ、
中小企業がIT経営からデジタル経営へ進む際の、現実的なステップ例を整理します。

ステップ1:
3年後の「ありたい姿」とIT経営の到達点を言語化する

 

  • 売上・利益だけでなく、「どのような顧客に、どのような価値を届けていたいか」まで含めて描く
  • そのために、IT経営として最低限どこまで整っているべきか(例:日次での業績把握、属人業務の削減など)を言語化する

 
なぜ最初にこれを行うかというと、
ゴールが共有されていない状態では、IT投資もDXプロジェクトも「場当たり的」になりがちだからです。
 

ステップ2:
1年以内に実現する「小さなデジタル化」の実験を設計する

 

  • いきなり全社ではなく、部署・チーム・製品ラインなど、小さな単位で始める
  • 「このテーマがうまくいけば、他の部署にも展開できそうだ」という題材を選ぶ
  • 期待する成果と、測るべき指標(数字・行動)をあらかじめ決める

 
こうすることで、成功・失敗のどちらからも学びが得られ、
「自社なりの進め方」の型を作りやすくなります。
 
 

ステップ3:
振り返り・標準化・展開のサイクルをつくる

 

  • 実験プロジェクトが終わったタイミングで、必ず振り返りの場を持つ
  • うまくいった点・うまくいかなかった点を整理し、以下の3点に落とし込む
    • 業務フロー
    • ルール・マニュアル
    • システム設定・手順書
  • 他の部署・拠点に展開できる部分を選び、「横展開の手順」を決める

 
このサイクルを繰り返すことで、
「プロジェクトベース」から「常に改善され続ける仕組み」へと移行していきます。
 

伴走できるポイント

社外CIOとして並走し支える領域

社外CIO/IT導入支援/内製化/情報システム課設置/IT・DX人材育成
といったサービスと組み合わせながら、
IT経営からデジタル経営へと移行していく全体プロセスを一貫して支援します。

経営と現場の「通訳役」として

  • 経営者が話す「戦略・数字・方向性」と
  • 現場が話す「業務の実態・困りごと」

をつなぎ、両者が同じ絵を見ながら議論できる場づくりを行います。

小さく始めて、ドキュメントに残すクセづけ

  • 小さな改善・実験から始める
  • うまくいったやり方を、手順書・チェックリスト・簡易マニュアルとして残す
  • 担当者が変わっても続けられるよう、「形に残す」文化を一緒につくる

単発の成功に終わらせず、自社の財産として積み上がっていく状態を目指します。

「ひとり情シス」から始めるデジタル経営

情報システム部門を持てない中小企業でも、

  • 社内のキーパーソンを明確にする
  • 社外CIOと組み合わせて「小さな情シス機能」をつくる
  • 将来的な内製化・人材育成のステップを描く

といった形で、等身大のIT体制からデジタル経営への道筋を設計します。